『乳酸』ってなんでしょう?

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%B3%E9%85%B8
 『乳酸』とは有機化合物(炭素原子を中心にした化学物質)の一種で、広く生物が産生する物質です。例えば、近年では筋肉の疲労物質≒激しい運動をした後に筋肉にたまり筋肉痛を引き起こす原因になっているというような話も出てきたりしています。
 有機物(大まかに言って、生物が作り出す物質)の中で、特に酸性を呈する物質は『有機酸』とも言われますが、乳酸や酢酸(一般的に我々が調味料として使用しているお酢)やクエン酸(レモンなど、柑橘系の酸っぱさ)、リンゴ酸(リンゴなど、果実に含まれる酸)がその『有機酸』で、これらを有史以来、人類は様々な形で利用してきました。

『乳酸菌』ってなに?

 有機酸の中でも、酢酸と乳酸は主に『発酵』といって、微生物に食物から作ってもらうことが多いのです。今回は特にその中でも乳酸を作ってくれる『乳酸菌』について考えてみたいと思います。

 『乳酸菌』と人類の付き合いは古く、日本ではお漬物、特にぬか漬などで利用されています。西洋や中央アジアなど、牛や羊、ヤギなどの乳を盛んに利用する地域では『ヨーグルト』など、『乳酸菌』を利用した食品が数多く存在します。
http://www.danone.co.jp/health/bacteria/lactobacillus/lactobacillus.html
 こちらはヨーグルトで有名な『ダノン』のサイト。乳酸菌の解説がありますのでご一読ください。

 『乳酸菌』は『乳酸発酵』によって『乳酸』を作り出してくれるどこにでもいる『細菌』です。
 最近ではあまりぬか漬を作るご家庭も減りましたが、『浅漬け』とか『古漬け』という言葉はご存知でしょうか? 『浅漬け』とはこの『乳酸発酵』を短い期間行ったお漬け物、『古漬け』とは長い時間行ったもので、古漬けは歯がカシカシするほど酸っぱいものが多いのですが、これは『乳酸菌』が作り出した『乳酸』がより多く含まれているという状態なのです。

『乳酸発酵』ってなんでしょう?

 『発酵』とは、人類に有用な細菌や酵母*1が食物などを有用な形に変えてくれるという現象です。アルコール発酵(醸造)や味噌などの発酵もそうですね。アルコール発酵は『酵母』が、味噌などの発酵は『コウジカビ』がそれぞれ食物に含まれる物質を分解して別の物質を作ってくれたり、タンパク質やデンプンなどをそれぞれアミノ酸や糖にしてくれたりします。パンの発酵は酵母が糖を分解して二酸化炭素とアルコールを作ってくれる作用を利用したもので、主に『二酸化炭素』の産生によってふっくらとしたパンが焼けるのです。これは『炭酸発酵』と言うのですが、これは今回は別のお話。因みに、人類に有用でない細菌やカビが食物をダメにしてしまう現象を『腐敗』といいます。
 
 『乳酸発酵』は前項でも触れましたが、『乳酸菌』が『乳酸』を作り出す性質を利用した『発酵』技術です。これにより私たちは夏に取れた野菜を冬でも食べられるように保存したり……ラッキョウや梅干、ピクルスですね……、傷みやすい牛乳をヨーグルトやチーズとして長く食べられるようにしています。
http://www.eonet.ne.jp/~nakacchi/cheese.htm
 ちょっと難しいかもしれませんが、チーズ作りを解説しておられるサイトです。

 『発酵』という技術は難しいもので、例えばぬか床がだめになるとか、梅干にカビが入るとか、そういった失敗が結構つき物だったりします。『発酵』とは雑菌との闘いなのです。


 以上、簡単にまとめてみたつもりですが、なにかわからない事があればコメントなりTwitterなりでご質問ください。



<コラム>人体の常在菌について
 人体には数多くの細菌やカビが棲んでいます。

 例えばヨーグルトのCMなどでよくお聞きになるかと思いますが、腸には数多くの菌が棲んでおり、食べたものからビタミンを作ったり、消化を助けてくれたりしているのですが、これらはいわゆる『善玉菌』の仕業(?)です。一方『悪玉菌』はメタンガスなどを作り出し体に悪い影響を及ぼします。が、これらもバランスが肝心で、善玉菌だけでも悪玉菌だけでもヒトは病気になってしまいます。また、この『悪玉菌』や『善玉菌』、それ以外の菌などをひっくるめて『腸内細菌』と言うのですが、これらは腸でヒトの免疫システムを鍛える役割も持っています。なんといいましょうか、人の免疫細胞である白血球やマクロファージにとって、腸内細菌はスパーリング相手とも言うべき存在なのかも知れません。

 また、皮膚表面などにも細菌は棲んでいて、例えばニキビなどはこの細菌の一つが毛穴に入り込み、そこにある皮脂腺で増え、炎症を起こすために起こります。おできなんかもそうですね。ただ、これも皮膚は細菌を利用して他のもっと危険な細菌(特にカビ……水虫菌やカンジタなど)を撃退しようとしている所もあり、そのバランスもむやみやたらと弄ってしまうのはよくないことでもあります。

 乳酸菌培養液(増やした液)を皮膚に吹き付けるということをやっておられる方もあられるそうですが、これは皮膚表面の細菌バランスを崩す上に乳酸菌が作る乳酸≒酸を吹き付けているようなものですから、これは決して皮膚によいものではありません。ひどければ皮膚炎や湿疹などを引き起こしますのでお止めになられる事をお薦めします。

 因みに皮膚は放射線や紫外線などに対しても有効な防護システムで、高エネルギーの紫外線などを受ければ赤くはれ上がって日焼け(あれは炎症なのです)を起こしたり、あまり強いものに当たればはがれたりしますが、ごく一般的なものであれば充分に止めてくれ、人体を護ってくれます。どうかあまり過敏になられませんよう。
 もちろん高度に汚染された地帯では何らかの対策を採るべきですが、少なくとも現状においては、日本の大部分ではそこまでの心配は必要のないものであると考えます。

*1:酵母はカビの一種で、真菌という最近とは違ったものです。キノコの仲間ですね