新人事制度の導入辺りのお話。

 00年代、それまでの年功序列人事評価を取りやめてあちらこちらの会社が能力主義の人事制度を取り入れたかと思います。その辺りから社会人になった人たちはピンと来ないかとは思うのですが……って、世に出た段階でもうそういう評価体制だった訳ですから当たり前で、そうなるとまずは年功序列システムについて少し話してから入った方がいいのでしょうかね。

 基本的に日本の企業というものはその構成員にジェネラリストである事を求めます。
 例えば、卸問屋において、営業で採用された人でも倉庫の仕事を知らなきゃあならない。物流がわかってないといずれ支店長職なんかになった時困ってしまいますからね。いや実際はエリートコースを行く人は実務なんて知らなくっても総合管理職(って用語はあるのかな?)についてその支店業務を見なきゃあならなくなるとは思うんですけれどもね。で、現場と軋轢を引き起こすんですが。<<例えば営業に迷惑をかけないために品切れを起こすな(当たり前ですけど)。その為に最大限の在庫しろと言った返す刀で在庫は最小限に圧縮しろって言ってみたり。で、品切れが起きれば当然物流の無能を非難し、在庫が多ければ(略。お前ら給料分仕事しろ、とか怒鳴ったりね。>>
 昔ギリシアの偉い人は『万能の平凡人』(私はこれを何でも卒なく出来る人と解釈します)が理想としていたそうですが、日本の会社は全てが完璧に出来る人を求めるのですね。よく『職人』という言葉を耳にしますが、職人とはある分野における達人を意味するように思います。なんかトートロジーに陥ってる気がしないでもないですけど、日本の会社が求めるジェネラリストというのはつまり、全てにおいてスペシャリストである事を求めているのです。んな訳で、営業採用で入ってきた人は物流に廻されて腐ったりするんですが、まぁそれは別の話。

 で、ジェネラリストを育てるには年月がかかる。そもそもそんなジェネラリストが育つのかは疑問ですけど、万能の平凡人が育つにも年月がかかる訳です。そういう人を求めますから、日本の企業は年功序列制を取っていたのですね。
 多分この辺りには反論があるでしょうけど。
 
 それがバブル経済崩壊以降、重くなった中堅社員の人件費削減を日本企業は命題としました。で、導入されたのが新人事制度といわれる能力給制度です。
 人はがんばった分だけ給料が当たる。正当な評価を与えられ、能力がある人が重要ポストにつき采配を振る。会社は旧態依然とした日和見主義的な体制から闘う組織へと変貌する。
 少なくとも、当時はそう言われていたと思います。
 結論としては、どうなんでしょうね? 私個人はただ単に人件費を削減して、しかも定期昇給などがない世界ですから夢も希望もなくなったんじゃないか、と思います。
 もちろんきちんと運用されてりゃあいいですよ?
 でも、恣意的に運用されている場合が多いんじゃないでしょうかね?

 例えば数字。
 営業社員が10人で廻っていたエリアを効率化の名の下に6人で廻るようにする。4人は早期退職優遇制度などを使って退職に追い込まれます。で、その6人は対前年比105%の計画を与えられるとします。これ、達成できますか?
 当然翌年は売り上げが減ります。で、対前年比98%で歳を終えたとしましょうか。対計画はいくらでしょう? ざっと93%ですかね。で、評価Cを与えられて給与は減額されないまでもボーナスはカットですよね。もちろん昇給はなしです。
 その翌年、対前同で計画が立てられればいいですけど、対計画で立案されたら終わりです。延々とこの営業員は計画を下回り続けます。もちろんその頃はその会社自身が売り上げをガツンと減らしているので、営業以外の各部門にも給与減の圧力はかかります。
 
 例えば個人目標。
 個人目標を持って日々スキルアップを行うというあたりは新人事制度によくある話だと思います。それは個々人が目標を自主的に立て、自分の力でそれを成し遂げていくものです。それで成長した社員は会社の為になってくれる事でしょう。
 もちろん外資や一流企業ではそんな事当たり前だといわれる事もあるでしょう。
 そして、その目標は客観的に評価できるものでなければなりません。概念的なものでは評価のしようがないですからね。

 で。
 経理部門のAさんは回収サイトの短縮を目標にしたとします。回収サイトというのは今月もらったお金が一体いつの売り上げの支払いに当たるのか、というもので、例えば現金商売の場合はサイト0日ですね。今提供した商品が即現金になってますから。で、月掛けの場合は30日とか。一年前の分をもらってる……売り掛けがたまっている場合なんかは360日。このサイトというものが縮まれば縮まるほど金利とか色々助かりますから会社にとってはいい事なのですけれど、さて。
 
 Aさんに出来る事は何でしょう?
 売り掛け金の回収をするのは基本的に営業社員です。もし、お得意先に経理社員が行ってもっと支払え! とか言ったらたぶん取引が飛びます。
 と、なると、Aさんに出来る事は営業社員を突付く事です。
 もちろんお支払いの滞っている先をチェックしてそこを重点的にお願いしてもらうというようなアクションは起こせます。が、それも営業社員の仕事です。
 それって、Aさん個人の努力なんでしょうか?
 果たして全社でのサイトが10日短縮されたとします。で、Aさんは評価が上がります。その影では無理な回収依頼をしたが為に売り上げを減らした営業社員がいるかもしれませんね。
 いや、多分営業社員は動かないでしょうけど。


 そんなこんなで、新人事制度というのは私の経験からすると、軋轢は生むわ、給料は下がるわ、良い事がなかったように思えます。会社にとっては人件費の削減にはなったんでしょうけれども、まぁ、ねぇ。



 うん。今日もとっちらかった。というわけでこの辺で。