ある男の話

 男は急いでいた。里から届いた便りは妻が生死の淵にいる事だけを伝えていた。妻は身籠っていた。それは男の子ではなかった。だが、男はそれをかまわないと思っていた。そしてそう妻にも伝えてあった。通いなれた街道、雪が深かった。思うように進めない事への苛立ち。男は空を仰いだ。その先には越えなければならない峠があった。
 街道が山道へと変わって行く頃には日はすでに傾いていた。不安はあった。闇と雪。峠越えなどどうしてできよう。だが、男は迷わなかった。
 中腹、吹雪となった。男は唸った。唸り声が雪に溶けていく。一寸先も見えない。風の音、白い世界。男は一瞬立ちすくんだ。しかし、また踏み出した。この峠さえ越えれば。この峠が越えられれば。男はそう思った。
 翌朝、妻は死んだ。男は、帰らなかった。

 
 前からちょこちょこと書いてた奴なんですが、いっぺん書き直してみようと思っています。
 書く書くと、言っては書いてきませんでしたが、今度こそは何とかしませんといよいよ後もありませんし。
 はてさて。がんばりませんとね。

 明日はちょっとしんどそうです。