掃討戦

 夜。青年はゴミ捨て場に捨てられた全裸の少女を見つけた。青年は、訝しげに思ったが放って置く気にもなれずその少女を抱え、部屋に戻った。
 違法アンドロイド?青年は思った。とりあえず少女にはどこにも損傷は見られなかった。識別コードも無かった。戦後、人間と機械が戦った先の戦後。アンドロイドはすべて国家によって登録されるべしとの条約が結ばれていた。登録されていないアンドロイドはつまり敵。機械側がまだひそかに製造していると見られるスリーパーであるとされ、処分された。ただ、裏社会では高機能AIを搭載したアンドロイドは生産し続けられているという話もあった。そしてそれは大抵金持ちの愛玩用として用いられた。スリーパーだったら厄介だな、と青年は思った。後者にしても厄介か、とも思った。
 青年はとりあえず少女を風呂場で洗い、充分に乾燥させた後自分の服を着せた。下着の類は無くて構わないだろう。そして青年は少女を自分の寝台へと寝かせ、自分は部屋の隅で毛布に包まり瞳を閉じた。

 朝が来た。窓からは日差しが差し込んでいた。青年は目を開けた。少女は昨夜のままだった。
 ……壊れて捨てられたのか?それともただの人形か?まさか死体じゃ!!
 青年はネットを開いた。そして警察の行方不明者リストを読み込んだ。……そして、見つけた。少女だった。青年は、ネットの画像データと少女を照合した。顔の特徴、身長、体重。すべてが一致していた。生命反応は無かった。初めから無かった。だから青年は少女をアンドロイドだと思った。いや、少女は確かにアンドロイドだった。彼女の体は作り物だった。それは間違いない事実だった。なのになぜ、この少女は人間として不明者リストに載っている?青年は自分の思考が停止していくのを感じた。
 
「トラップ発動を確認……対象機能停止」
 ディスプレイを監視していたオペレーターがつぶやくように言った。
「回収班を現場へ、油断させるなよ」
「了解」
 指令の命令をオペレーターが待機中の回収班に伝達した。
「回収班、突入開始。突入開始。スリーパーの欺瞞に注意されたし」
 回収班からの返答がスピーカーから流れる。指令は隣に立っていた副官に笑いながら言った。
「しかし、楽になったもんだな」
「そうですね」
 と、副官は真顔のまま答えた。
「しかし、裸の少女が路上に放置されていて、それを救うのがみなアンドロイドだと言うのは盲点でした」
「それだけ、人間と言うものが白状だって事だな」
「AIは基本的に善人ですから」
 副官の言葉に指令は苦笑いを浮かべた。