黒猫

 色々退職についての手続きをして回っているうちに、自分のミスで3万ほど余計な出費が出ることがわかって。

 そんな中、ふと思い出したのが『この世はすべて人が為している』なんて言葉。『神はいない。居ても何もしてくれない。だから神は神として存在するのだ』とか。

 買い物の途中、何故自分がこんな事を思ったのかふと不思議になりながら。

 そして毛並みのいい黒い子猫が轢かれているのを見ました。車を走らせている先、はじめはゴミ袋が風にはためいているのかと思ったのですが、実際は猫で。毛並みのつややかな若い猫でした。すれ違いざまに一瞬その毛並みの美しさに目を奪われました。バックミラー越しに。もがいてはいるものの、その場から離れる事も出来ない様で。外傷はない様で血は出ていませんでした。だとすれば……。近隣に知った動物病院さんがあったのですが、連れ込んだ所で結果は同じなのではないか。家には既に二匹の猫がいるからこれ以上飼うことも出来ないし。それ以前に……。
 結局私は何もせず家に。しばらく悩んだ挙句嫁に尋ねて見ました。嫁が私を見る眼は刺すようでしたが、私の述べる状況に思慮を巡らす嫁の眼は冷静なもので。そういや、ここに惚れたんだったな、と。
 もちろん、裁定は私は愚を冒したと言う事で。為すべき事を為さなかったと責められました。そしてそれは私が求めていた結果で。

 貧すれば鈍すとは良く言ったものだなと椅子に座り小一時間。もし、神様がいるのであれば彼(彼女)には次こそ幸福をお与え下さいと願って。ただ、またこの世に生まれてこなければならないのであればそれはまた苦悩の種である訳で。


 そしてふと。なんだ、あの子は俺じゃないかと。