月夜

 タバコを吸おうと窓から顔を出すと、辺りが思いのほか明るかった。
 見上げると丸い月が一つ、空に浮かんでいた。星は見えない。
 こんな夜は散歩にでも出たいが、実家暮らしの悲しさ、そんなことも出来ない。

 夜は、好きだ。
 思い起こすと私は夜にうろつく事が多かったように思う。

 中学時代、所属していた生物部では夜間採集が常だった。弁当箱に白米、缶詰を一つ。鞄に詰めて補虫網を担いで走らされた。九頭竜ダムの蒼い水銀灯、トンネルの朱いナトリウムランプ。
 大学時代の宇都宮。長岡街道で見上げた満天の星空。
 駅弁屋にいた頃の駅の灯り。夜行列車のヘッドライト。
 塾募集係だった頃の越前海岸で見た漁火、坂井平野の赤い夜。

 雪の夜、月明かりは幻想的な世界を造り出す。凍りつくような雪の月夜。

 そういえば、冬も近い。今年はどんな冬なのだろう。

 去年はどんな冬だったのか?去年の今頃はどれくらい寒かったんだろう?どうも思い出せない。
 
 いろいろな事を忘れているような気もする。そして同じ失敗を繰り返しているような気もする。私は馬鹿なんだろうか?と時々思う。

 多分、馬鹿なんだろうな、とも思う