ラジオを聴きながら
俺はいつものようにパソコンの前に座っていた。水緒は水緒で俺の本を引っ張り出してきては読んでいた。TVはしばらくつけていなかった。いい加減ワイドショーには飽きていた。だからといって何もないのは寂しかったし、沈黙の中キーを叩く音とページがめくれる音だけの昼下がりというのはそれなりにも思えたがラジオをつけていた。最初の頃はCDをかけていたのだけれども、俺が好きな曲は水緒はあまり好きではないらしく、その結果ラジオに落ち着いた。
ラジオは好きだった。仕事中、移動の車の中では必ずかけていたし何より手を止められないのが良かった。どこかのリフォーム会社の社長。カビが生えて困るというリスナーにアドバイス。風が通る道を作ればいいと言う。
不意に水緒がハミングを始めた。俺にはすぐその曲がなんであるか解かったが、それはそれで俺は苦笑いするしかなかった。前奏が終わり歌がはじまる。
「足元にかぜ〜光がー舞った〜♪」
俺が歌うと水緒はギョッとした目で俺を見た。
「すまん、歌いたかったか?」
「えーと、その」
水緒には戸惑いがあった。
「そもそも、通り道だ。辿り着かん」
「えーと、あの」
水緒は呆けていた。一体どこで覚えたんだろう、あぁ、俺のせいか。