白鷺

 白鷺が、飛んでいた。
 青空、雲ひとつ無い青空。中原はビルの壁を背に座り込んだままそれを見上げていた。
 腹が、痛い。中原はそこをそっとまさぐってみた。生暖かい感触。目の高さ、手が上がらない。視線を落とす。野戦服には穴が開き、生地はじっとりと黒ずんでいた。指が真っ赤に濡れていた。
 中原は、ポケットの中にキャラメルがあったことを思い出した。苦労して取り出し、箱を開け、中から一つ。手の中で包み紙を剥く。あぁ、どうやって口の中に入れようか?手が上がるかな?中原はやってみた。手は途中まで何とか上がったがそれ以上はどうしようもなかった。中西は思いついた。その場に倒れ、身体をくの字に曲げてみた。これなら何とかなるだろう。中西はキャラメルを口の中に運ぶ事に成功した。中西はうれしかった。
 雲ひとつ無い青空に白鷺が一羽、飛んでいた。中西はキャラメルの甘みに頬を緩ませた。