掌編

雨の夜、飲み屋の風景

冷蔵庫のコンプレッサーが低くうなっていた。閉店まであと2時間、葱をきざもうかどうしようか。外は雨、この分だとお客はないだろう。つけ場の方を見ると親方が不機嫌そうにむきものをしていた。カウンターの客席側からうっすらと煙が見える。多分女将がタ…

第17回箱庭管理士試験

チャイムがなり、受験生たちは一斉に問題用紙を開いた。あちこちで呻く様な声が上がった。 「やはり難しすぎましたかね?」 会議室、初老の男が呟いた。 「いや、これぐらい軽くこなしてもらわないと」 別の男が答えた。 「箱庭管理士は絶対的な権力を握りま…

魚雷艇13号

「どうしましょうね?」 「さぁな」 艇長は呆ける操舵手に捨て鉢に答えた。有史以来、初めてではなかったろうか?人類が一つになった事など。その結果がコレか。艇長は苦笑いを浮かべた。 「艇の名前がいけなかったんじゃないですかね?」 通信手が言った。…

桜舞う頃

淡いピンク色の花びらが折からの強風に煽られて一斉に舞った。僕はただその光景に見入っていた。 「エッチ!!」 突然の声に僕は戸惑いを覚えた。目の前には一人の少女が立っていた。いまどき珍しいセーラー服の少女。高校生だろうか?その制服はなにか懐か…

紅茶

ポットのお湯で紅茶を入れた。 それが邪道だなんてことは、よく知っていた。ただ、それを叱ってくれる人がもういなかったし、ぼくに紅茶を入れてくれる人が、もういなかったからそうしただけだった。 あの人はいつも僕に美味しい紅茶を入れてくれた。 赤い缶…

誰もいない街 〜青い光の中で〜

誰もいない街を、僕は歩いていた。 戦争は終わった。正確には戦争をするべき人間がいなくなってしまった。某国が使用した細菌兵器は人間はおろかほとんどの動物をただの液体へと変えてしまった。学徒動員だった小隊長が死に際に言っていた。細胞間接着分子が…

ノクターン

どこからかノクターンが聞こえた。なぜこんな所で。 「03、どうした。着地時に支障か?」 「異常ありません」 レバーを倒し、ペダルを踏み込む。強烈な加速、光学センサーは機動兵器を捉えていた。TCSの判定は脅威度1、なんだ?ミンティアか。交戦規定は…

白鷺

白鷺が、飛んでいた。 青空、雲ひとつ無い青空。中原はビルの壁を背に座り込んだままそれを見上げていた。 腹が、痛い。中原はそこをそっとまさぐってみた。生暖かい感触。目の高さ、手が上がらない。視線を落とす。野戦服には穴が開き、生地はじっとりと黒…

防人

目は見えなかった。そもそも、ここには光などない。いや、あるのかも知れないが僕にはそれを感知する術はなかった。大きな流れに身を任せ漂う。何もなければいいのだけれども。 『アツマレ・アツマレ』そういう匂い、それはだんだんと強くなってきていた。何…

反逆者

彼にしてみればそれは偶然だったのだろう。いや、そもそも彼と言う表現を用いて構わないのか、どうか。しかし、彼の出現によって死んでいったモノたちは、やはり彼のことを許しはしないのだろう。 今からはるか昔の出来事。 彼は、住み心地の良い海底の、火…

青年と老人

青年は自分のことを天才だと思っていた。老人は自分のことを凡人だと思っていた。 老人の研究室。訪れた青年は老人を前に呟いた。 「世の中は私を認めてくれません」 老人は微笑を浮かべて答えた。 「大抵は、そういうものです」 テレビが毒ガステロを報じて…

黄金の種

ごめんね。 守ってあげられなくて、ごめんね。 守ってあげるって、考えてたのが間違いだったのかな。 ごめんね。 ごめんね。 ごめんね。 ごめんね。 ・ ・ ・ ・ ・ (以下、解読不能) 【旧・日本州種子保存センター跡地より発見された半壊の『はるか』のメ…