ノクターン

 どこからかノクターンが聞こえた。なぜこんな所で。
「03、どうした。着地時に支障か?」
「異常ありません」
 レバーを倒し、ペダルを踏み込む。強烈な加速、光学センサーは機動兵器を捉えていた。TCSの判定は脅威度1、なんだ?ミンティアか。交戦規定はクリア、武器使用規定クリア。すべては射撃許可を示していた。25mm機関砲を指定、安全装置を切り、トリガーを絞る。まどろっこしい。なぜ私たちが人向けのデバイスを使用する必要があるのだろう?瞬間浮かんだ疑問を規則正しい機関駆動音が掻き消す。標的が活動を停止した。生命反応消失。TACCSからの情報ではこの街区にはもう敵勢力はいない、はずだ。
「03、ミンティアを破壊。警戒待機中」
「了解、指示を待て。敵勢力はTAを投入した可能性がある、留意されたし」
 戦闘用アンドロイド?そんなもん、どう識別すんだよ?生物じゃなきゃ俺のセンサーは感知しない。相手のパターンは?何を投入したんだ?そもそもあいつらの持ってるTAなんてそんなに数が無いだろう。ここはそれほど重要な場所なのか?
 またノクターンが。
 畜生、ウィルス攻撃か?いや、俺の、俺という防壁は完璧なはずだ。じゃあこのノクターンはいったいどこから……。不意の爆発音。あの方向は02だ!
「03、02喪失。02は高速移動物体を確認、こちらからは位置がつかめない」 
 光学センサーを360度警戒モードに移行する。情報の流入がさすがに大きい。機体制御を一部切り離す。振動センサーが4時方向に何かを感じた。
「そこか!?」
 光学センサーを射撃モードへ、そこには少女が映っていた。
「!!」
 少女はこちらを一瞥すると強引に体をひねり手にした何かを放り投げた。警告が鳴る、スタン・グレネード。爆発、センサーがいくつか焼きついた。外装を何かが叩く音、前面装甲が引き剥がされ、膝が砕ける。姿勢制御プログラムがフリーズ、片足を失った二足歩行戦車がどう姿勢を保つというのか?矛盾している。そして、俺は少女を見た。少女は悲しげな表情でこう言った。
「怪我はありませんか、今助けます」
 その瞬間、何かが蠢いた。TACCSからの信号、自爆指令。
「ハルカ、逃げろ、自爆する」
 ハルカはそれでも逃げようとはしなかった。
「いえ、私たちには人を救う義務があります」
「馬鹿を言うな!俺は機械側に囚われ改造されてしまった。こいつに繋がれこいつから外されればどのみち俺は死んでしまう!俺はすでに機械だ、いいからお前は逃げろ!逃げて人類を護ってくれ!!残っている人類を!!!」
 ハルカは悲しげだった。『俺の意識』と言う防壁を突破され、自爆コードが働いた瞬間、俺は残っていた腕でハルカを突き飛ばし、バーニアを吹かした。その時、ハルカは泣いていたように見えた。

 ノクターンが聞こえた。それはきっと俺が人だった頃の記憶に違いない。それがせめて、良い思いでであればいいのだけれど。