作る事。売る事。

 昔弁当屋にいた頃の話。
 朝3時に出て行って白衣に着替えて盛り付け台をアルコールで消毒しながら仕事の準備を進めます。で、今日の生産数が黒板に書いてあるのを見て折を並べてひたすら詰める。夜が白んできたら今度は巻き寿司器の前に立ってオペレーターをやって、終われば笹寿司やいなり寿司を作る。そんなこんなで7時ごろ、昨日の残っていたご飯に具の無い味噌汁をぶっかけ掻きこんで、また盛り付け場に走ります。そこからはまた弁当を詰める詰める。
 あの頃は、それを食べる人の姿なんて想像していませんでした。時折配達に走ったりもしたのですが、それはそこの係りの人に手渡すまでで、その人が食べる訳でもなく。そこには感情のやり取りはありませんでした。

 モノを売り歩いて。
 仕事を変えて、今度は人が作ったものを売って歩く立場になりました。物を売るにはその商品に自信を持つ事が肝要。誰にもコレは負けてません、と訴えたいんですが卸セールスの悲しさは、コレが入っている得意先ではコレを叩き、アレを突っ込まなきゃならないということで。


 分化と言う現象があります。
 腕は腕に、口は口に。胃は胃に。それぞれがそれぞれの役目を全うしてこそはじめて組織が生きる。そういう寓話もありました。
 ただ、腕には腕の尊厳、口には口の尊厳もあります。

 昔、弁当屋にいた頃。
 午後4時からコンサルタントの先生を迎えて話を2時間ばかし聞くようなことを毎月やってたのですが、眠くて眠くて眠い目をこすりながら聞いた話の一つに、あるタンスメーカーさんが社員を家具屋さんに研修に出す話がありました。メーカーから派遣された社員さんはなぜこんな所へと思いながら行くんだそうですが、自分たちが作ったタンスを持ってあるお宅に伺うとそれは嫁入り道具だということで運び込まれたタンスを見ながら集まっていた人たちが涙を流して嫁入りを祝っていたのだというのです。その研修から帰っていったメーカーさんの社員さんの目の色は明らかにそれ以前と違ったそうです。

 昔、製造だった頃営業とは喧嘩が絶えませんでした。
 今、営業の間では内勤に対しての愚痴ばかり聞かされます。

 漠然とした話になってしまいましたが、ちょっとそんなことを思い出した夜中です。