宇宙戦争モノ

                                           日本連邦宇宙軍・第3護衛群 巡宙艦『ひえい』
 
 それは、定期パトロールの一環に過ぎなかった。
 宇宙戦争というものが遠く過去となった世紀の夢物語だとされていた昨今、彼らの任務は航路保安局の艦艇では調査が困難と思われるような地域……例えば小惑星帯や他星系国家との領界域の警備と新しい可住惑星の探査が主たるものだった。そんな事、何も軍と名の付く集団が行うべきものでもないだろう、というのが世論ではあったが、他国家が軍を有しているのに我が国だけ持たないのはおかしいという世論もあった。『ひえい』艦長・高松一佐はむしろ前者に近かったが、航路保安局員よりも自由に宇宙が飛べる『軍』という職種には愛着を持っていた。ただ、それが『宇宙開発公団探査部』でも構わないとは思っていたが。
「艦長!前方180光秒に船影を確認しました!!」
 観測室からの通報、中松はまさかと思った。この宙域は人類の活動宙域を遠く離れて数光年、他国家がこの宙域を探査しているという通告はない。宇宙は奪い合うには広すぎた。だとすれば、宙賊か?
「エネルギー反応……地球圏の船の反応ではありません!」
 ファーストコンタクト。そんな言葉が頭をよぎる。高松は首を振った。人類が宇宙に出てから数世紀、地球外生命体との接触は無かった。いや、もしかすると……。それこそ夢物語だ。高松は冷静に努めた。
「目標の観測を続けろ。通信、全通信帯で呼びかけろ。文面は対アンノウン定型。偵察ポット、射出用意。準備出来次第報告せよ」
 コンソールで各部より了解の意を受け取る。一人、通信主任は進言を申し立てていた。シンボルをチェックする。
「艦長、文面は対地球外生命体定型のほうが適切ではないかと愚考しますが」
「了解、通信。では両方を交互に送信しろ」
 艦橋要員は皆、浮き足立っているように見えた。宇宙人だ、宇宙人だ、宇宙人だ。高松は苦笑いを浮かべた。きっと俺も浮き足立って見えるんだろうなぁ、と。
 当該目標からの返信は日本語だった。そして、その内容はSOSに類するものだった。

 
 『ひえい』が目標に接触したのはそれから10時間後の事だった。科学主任はそれ以前の職務に対する態度とは180度異なった精勤さを見せ、収容デッキへと飛び出していった。さて、なんなんだろうか?高松はコンソールの端に映し出された目標映像を眺めながら思っていた。どうもこれは、木造船のような気がする。高松はそれがなんなのかまるで想像できなかった。
「艦長!新たな目標を発見、その数4。いや、8。目標、高速移動物体を分離!」
 ミサイル?高松の脳裏に敵という文字が浮ぶ。
「全艦最大戦速、第1種戦闘配置、観測室、高速目標とは?」
 各部に緊張が走る。SOSとはこの事か。ルナドライバー即応待機中、対抗しますか?離脱しますか?航宙と兵装からの問い合わせ。
「離脱となせ」
 高松は答えた。兵装が舌打ちをする。微かな加重、艦の姿勢が変わる。観測室からの報告が入る。
「高速物体、詳細不明。本艦接触まであと60秒」
「敵艦との距離は!」
「約400光秒!」
 兵装が息を呑む。400光秒をおよそ90秒で通常移動する物体など、この世の中には無いはずだ。少なくとも人類の物理学はそれを否定している。
「機関全力、ルナドライブ始動、緊急退避、可能な限り跳べ!」
「了解!」
航宙よりの声。
「防空戦闘用意、対空・対ミサイル戦闘を想定」
兵装は戸惑っているようだった。
「兵装、復唱!」
「はい、防空戦闘用意、対空・対ミサイル戦闘を想定します」
 そういえばルナドライブ中にパルスレーザー砲って撃てるのか?
「艦長、高速移動物体、人型をしています!」
 ふざけた話だな、と高松は笑った。