ある女性航空士官の手記から

  
 馬鹿じゃないかと思った。
 翼の下にはどうやってつけたのかと思うほど大量の爆弾がぶら下がってたし、機体のお腹の所には対地ミサイルがびっしりと並んでいた。これは私のバンビちゃんじゃない。
「まるで攻撃機みたいですね」
 そう言うと機付長は困ったような、笑ったような、呆れたような。なんだか複雑な表情を浮かべて去っていった。遠く、手を振る。これが最期かも知れない。やっぱり、馬鹿じゃないかと思った。
 キャノピーを閉め、HMDを降ろす。管制塔からの交信が入った。
「バンビ04、準備どうか?」
「バンビ04、離陸準備よし。実装、実装」
 あまり付けない単語。自分でも笑ってしまう。兵装コンソールから流れてくるデータは真っ赤だった。実装の文字。知ってる。それはさっき私もチェックした。スティックは右手。スロットルレバーは左手。両足のペダルを確認してから思考制御に切り替える。HMDから流れ込んでくる情報量が一気に増える。なんとなく澱んでいる気がした。
 列機が次々と飛び立っていく。いつもよりなんだかヨタヨタ。笑って良いんだか、悪いんだか。
「04、滑走路へ進入せよ」
「04、了解」
 スロットルを少しだけ開ける。機体がゆっくりと動き出す。いつもよりも重い、気がした。
「04、急げ。当基地は敵の攻撃対象となっている。早く飛び立て!」
 手順はどうしたの?滑走路、視界は開けている。レーダーが何かを見つけた。……弾道ミサイル?私はスロットルを開けた。急加速!そういえば一回だけこんなことしたことあったっけ?あれは何の訓練だっけ?現実だったっけ?ヴァーチャルだったっけ?
「04、生き延びてくれ。04、生き延びろ!」
 いつも冷静だった官制。機体がふわりと浮き上がる。そして私はまっすぐ高空を目指した。
 数秒後、センサーが背後に突然現れた熱源を感知した。規模は大きい。IRセンサーが焼き切れるんじゃないかと一瞬不安になった。涙がこぼれる。馬鹿じゃないの?戦争なんて。馬鹿じゃないの?涙がこぼれた。