第17回箱庭管理士試験

 チャイムがなり、受験生たちは一斉に問題用紙を開いた。あちこちで呻く様な声が上がった。
「やはり難しすぎましたかね?」
 会議室、初老の男が呟いた。
「いや、これぐらい軽くこなしてもらわないと」
 別の男が答えた。
「箱庭管理士は絶対的な権力を握りますからねぇ。中途半端な人間にそれを担う資格はありませんよ」
「先生はどうなんです?」
 初老の男が楽しそうに言った。
「私ですか?私はまっぴらご免ですよ。何が悲しくてそんな面倒を好きこのんで抱えたがるのか?私には彼らの気持ちが理解できません」
 その言葉に嘘はなかった。確かに箱庭管理士はそれだけの権力を与えられる、が、それに伴う面倒……それは精神的なものから肉体的なものまで多岐に渡り、毎年何人もの箱庭管理士が過労で倒れ、自らの命を絶っていた。
「そう言えば、今年の受験生は何人でしたっけ?」
 初老の男の問いに事務局の腕章を付けた女が答えた。
「今回は23人です」
「減りましたねぇ」
 初老の男はため息混じりに言った。
「去年管理士を失った箱庭は12個でしたから……少なくとも12人は合格者が出てくれないと困りますね」
「いや、新しい箱庭も要りますから、せめて13人は必要でしょう?」
「13人ですか……。さて、それほど受かりますもんやら?」
「むりやり通す、訳にもいきませんしね」
「それぞ神のみぞ知る、ですかね?」
 女がくすりと笑った。

 問題用紙は白紙だった。解答用紙も白紙だった。それでも合格者は13人出た。男達はひとまず胸をなでおろした。