酒にまつわるアカサタナ

 親方は酒飲みだ。

 昔から、お弟子さんが日曜に尋ねて来た時親方が呑んでいないと『何かあったんですか?』と心配そうに聞くほど。そして誰もが酒を持ってくるほど。私も父親が酒を飲んでいないと聞くと何があったのかと母親に聞くのだから、まずそれぐらいの酒飲みだ。

 で、息子二人は一切やらない。
 理由は簡単で、兄の方は呑むなら買う方が良いという性質だったし、弟の方はそもそも消えて無くなるものに金をかけるのは馬鹿らしいという主義を持っていたからだ。
 それでも兄の方はたまには呑んだのだけれども、一晩でラム酒を一本空けた位で一体酒飲みとはどれほどのものを言うのか見当がつかなかった。

 酒飲みとは、多分酒と少しの肴以外何も口にしなくても生きていられる者を言うのだろうと兄は思っていたし、実際兄が見た親方とはそう言うものだった。正月は2日で一升瓶が3本転がっていたし、昼から出かけていく板場でも飲んでいたと聞いている。あれで肝臓も悪くなければ糖尿も無いのはよほどの事だとも思っていた。ただ、兄も父親と同じ板場に立ってこれは呑まずにいられないと思ったという。別に作っている料理を見てそう思うのではない。呑まないと、とても精神が耐えられそうに無いから呑むのだ。
 親方はタバコも吸うが、仕事中だけでも吸わなければ良いのにと思っていたが、もはや止める気もし無くなった。平目の造りがヤニ臭くなろうが、誰も料理の事など気にかける者はいないのだ。親方が歩いてきた板場、料理屋の板場とはそう言う所なのだと思った。

 親方は、今板場に立って毎日5合は呑んでいるらしい。60にもなった親方を働かせている自分に不甲斐なさも思うが、そうしなければいられないような働きを要求するこの世界も嫌になってはいた。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E9%85%92


 ともま、『酛』は『もと』でいいらしいのですが、IMEだとパットから拾わなきゃあならないと相方が言ってました。
 
 父親に付きあって数度近所のリカーショップなんぞにも足を運んでいるのですが、酒をみながら色々教わったりもしています。酒が飲めない人間が呑み屋をやるのは馬鹿げているとも思いますし、今やっている料理屋仕事の料理は多分今のお客さんには受け入れられないんじゃあないかな、と思う所が強いので。……例えば、八寸。温泉旅館で宴会などがあるとお膳についているこちょこちょっとした珍味類なのですが、アレを楽しむ人がいるんかいな、とか。先付も基本的に珍味系ですし、飲み屋さんでお通しに腹を立てる人もいるとかいないとか。確かにピーナツの小袋一つで500円はちょっとどうかと思うのは確かにそうだと思うのですが、チャージですよ?と言われるとそうでもないのかな?とも。席料についてくる店からのオマケという意味だったらそこは店側の良心という事でどんなもん出してもかまわんかと。
 料理屋の料理、と言うか懐石ってのは酢と塩が基本なんだな、と言うのを痛感しています。基本的に膾。カブラにしてもはじかみにしても酢漬けにしてから使いますし、そこには酢と塩、あと水が関わるのですが、砂糖なんかも入れてみたり。うまみを足したきゃあ昆布を投入したりするのですが、このあたりは昆布のうまみ成分だけを取り出したもの……腐敗が怖いと言う理由からそういったモノも使ったり。また、入ってないとなんだかボヤケタ味になるとクレームが出たりするんですよ。本当に上等な、5年物とかそういった昆布であればたぶん旨味も立ってピンと来るんでしょうが、そんなもの高級料亭でもなければそろばんが合わない訳で、逆にこの値段でそれを求めるのが如何に無茶を言っているのか想像してほしいと思う局面もあったり。このあたりは実際頭が痛いところです。正直に言えば、そんなモノは使いたくない。本当のモノだけを使いたいのですが、本当のモノだけを使うとこんな値段じゃ合わない。

 卵は物価の優等生と言いますけれども、真っ当な卵はそれなりの値段がする訳で、それはやはり高嶺の花に違いないのです。
 冬にイチゴが食べられる、キャベツが年中出回っている。そこには必ず無理がある。その無理を無理だと言う方が無理なのではないかと。冬は根菜メインの食事をするのが一番道理に適っている。春が来たならイチゴを楽しみ、夏が来たならスイカを食べればよろしい。秋には柿を、冬には蜜柑を。その時期その時期安い物を食べていれば間違いないんじゃあないかと思うのです。でも、無理をして安くしているものには手を出してはいけない。ここが肝要なんですよね。安いには安いなりの訳がある。その訳をしっかり見据えて考える必要があるんじゃあないかと。


 酒が飲めないので甘酒でもと思ったのですが、手元にある500mlパウチの濃縮甘酒は5倍に増やせとの事で。一度に1升4合も飲めるか!と言う訳で手持ちの瓶に詰めて打栓しておきゃあいいかとも思ったのですが、打栓器をどこにやったかわからなくなってしまいました。うー、せっかく取り寄せたのに一度も使わないまま腐界に飲み込まれたのかよー、などと。深い腐界も今回の現場が終わったら少しは浅くせにゃなんねです。

 なお、26日でまた待機です。どう見ても無職です。本当にありがとうございました。