宇宙戦争 #6

CDCより艦橋、艦勢制御を返します」
「艦橋、了解」
 春菜に中本が答えた。
「戦闘の可能性があったんですか?」
 水元は中本に尋ねた。艦勢制御……艦の姿勢を制御する権限をCDCが要求するというのは軸線砲を使用する可能性があるという事を宣言している訳で、それはつまりCDCがルナティックドライブ後に何らかの敵対勢力と接触する可能性があったという事だった。
「そうよ」
 中本はあっけなく答えた。
「それじゃあさっきの観測室からの『アンノウンA』というのが?」
「えぇ」
 中本は水元の問いに肯定の意を表しながらそれ以上口を開こうとはしなかった。艦橋に詰めていた全員にも二人の会話は聞こえていたが、誰も二人に注目するものはなかった。『知らされていないのは自分だけなんだろうか?』水元は思った。
CDCより総員、船長より訓示があります。各員はそのままで放送を聞いてください」
 春菜の声がスピーカーから流れた。
「まぁ、これを聞いてればわかるよ」
 艦橋の先任下士官が呟くように言った。水元は少し身を固くした。
「映像が見たければコンソールで見なさい。多分流れるはずよ?」
 中本の言葉に水元はコンソールを叩いた。全艦一斉放送受信、水元は画面をさっと撫ぜた。画面はCDCからの映像に変わった。
「『わかな』乗組の皆さん。船長の土屋博和です。と言っても、本日付けで私は船長職を解かれるのですが……」
 訓示はそんな一言から始まった。

「去る2152年12月6日、ほぼ半年前ですが、ペテルギウス辺境域第12セクターを探査中だった日本連邦宇宙軍の探査艦隊が突如正体不明の物体より襲撃を受けました」
 画面には3次元星系図、赤い点が表示された。
「探査艦隊は第17護衛隊、第18護衛隊で編成され、戦力は楠改級3隻、むらさめ級3隻、桐級2隻を有する部隊でした」
 楠改級は『わかな』の姉妹艦、むらさめ級は現在の主力、桐級は最新鋭の艦だった。
「艦隊は物体との交戦の結果『わかな』を除く7隻を喪失、618名を共に失いました。現在この事実はまだ公表されていません」
 先任下士官の背中が震えているように見えた。
「正体不明の敵、彼らは異星文明です」
 画面には岩石の様なものが写し出された。それは小惑星の様な物体だった。少しノイズが入る。次の瞬間、それは人型に変わった。
「アンノウンC、これを以降ゴーレムと称します。ゴーレムは亜光速で宇宙空間を跳ぶ事が可能です」
 人類が通常航行で出す事が出来るスピードは光速の40%だった。
「現在我々が有する兵器……荷電粒子砲やパルスレーザー砲ではこれを迎撃する事は不可能です」
 軸線荷電粒子砲は照準が取れない。パルスレーザー砲では威力が足りない。そういう事らしい。画面には第17護衛隊がゴーレムと交戦する映像が写し出されていた。第17護衛隊の最後の艦を攻撃していたゴーレムはその艦が爆散するとそのまま宇宙空間に漂って行った。
「ゴーレムを搬送・射出するのがアンノウンB、母艦です。これは荷電粒子砲で撃破可能です」
 第18護衛隊の総力射、何かが爆散した映像。
「母艦はスペクトル分析の結果木製である事が確認されています」
 拡大映像は不鮮明だったが、はるか古代に海上航行に使われた『船』にその形状は似ていた。直後、その『船』からゴーレムが射出されたがカメラはその姿を捉える事が出来なかった。次の瞬間結ばれた像は人型をし、護衛隊の先頭艦を爆散させたゴーレムだった。
「現在、母艦がどれくらいの距離でゴーレムを射出できるのか等は不明。我々はこれに『多目的戦闘機』と『高速戦闘艇』で対抗する事になります」
 映像は月基地で製造された多目的戦闘機に切り替わった。
「我が船に配備された『多目的戦闘機』はXMV−1。呼称はMV1とします」
 ゴーレムとMVの比較映像。MVはゴーレムの半分のサイズしかない。
「MVの主兵装は120mmレールガン。爆砕弾を使用します」
 MVがレールガンで小惑星を撃つ映像、小惑星が爆散した。
「副兵装はチェーンマイン。これは出来るだけ使いたくはない兵装です」
 帯状の爆発物、これは接近戦で用いるらしい。確かにこれを使わなければならない状況といえばかなり接近された状況だろう。水元は頷いた。
「本船のとりあえずの任務は次なる新兵器、『高速戦闘艇』を受領する事です」
 艦橋は静まり返っていた。衝撃と言えば衝撃、当然と言えば当然。水元は異星文明についてそう感じていた。
「あと、新人事を発表します。僕、司令に昇進します。新船長は横河君、少佐に昇進で船長代行」
 土屋はあっけらかんとそう言った。中本が呆れたように笑った。他の要員の中にも吹き出したものがいた。先任下士官はその要員を一瞬睨みつけたが、まぁ、しゃあないわな、と言う顔で笑った。
「では、最後になりましたが……先の戦闘で死んで行った将兵に黙祷を。総員、黙祷!」
 突然の声、艦橋要員は一斉に立ち上がった。水元もそれに従い目を瞑った。