ビタミンKシロップと助産師さんのこと。

 さて、久々のエントリーです。mixiTwitterの方ではボツボツやっているのですけれどもね。


 ここしばらくkoko24さんのご質問を追っかけていて色々考えている所に下記のような事件が発生してきました。
http://d.hatena.ne.jp/fuka_fuka/20100711/p1
 それというのは、山口県において発生した代替医療ホメオパシーに傾倒した助産師がビタミンKシロップを赤ちゃんに与えなかったためにその赤ちゃんがビタミンK欠乏性出血症を発症、硬膜下血腫を起こして死亡したと言う傷ましい『事件』です。
 本件に関する詳しいお話や議論はリンク先、fuka_fukaさんのエントリにお願いするとしまして、ここでは簡単に自論のみを展開してみたいと思います。

 ホメオパシーというのは、ドイツ発祥の療法(?)で『類似したものは類似したものを治すという類似の法則』と言うものを根幹に置いたものだそうなのですが、例えばある物質がある症状を引き起こすとします。で、そういう症状がある患者さんにその物質を与える訳なのですが、この時その物質を直接与える訳ではなく、それを100の30乗回震盪・希釈した水などを含ませた砂糖粒などを与えるのがミソのようです。
 常識的に考えれば、それだけ希釈したものにはその物質そのものが含まれているはずはなく、ならば効き目は期待できないのではないかと思われるのですが、その震盪時に水がその物質の波動を写し取っているそうで、結果効果を発揮できるそうなのです。
嘘つけ、とは言わないでくださいね。ホメオパシーをやっておられる方はそれを真正面に信じておられる訳ですし、私は他人の信仰にとやかく口を出したいとは思わないので、まぁ、そういうこともあるのだろう、としておきたいと思います。

 で、ま。
 それで助かる人がいるのであれば、まぁ、それはそれで構わないのではないか、と私も思わなくもないのですが、それは現代医療や通常の療法などで手の施しようがない場合に限るのではないか?神頼みをするのは人事を尽くしてからであるべきで、さもなければそれは神様に対する不敬に当たるのではないか、と思うのですね。


 さて。
 有史以来、人類は様々な病気に苛まれて来た訳ですが、現代我が国でも主流となった生命機械論を中心に据えた『西洋医学』が出来上がるまでには様々な療法が試みられてきました。いや、西洋医学にしてもそれは西洋・中東などにおける伝承医療を基に立つ訳ですから、それすらもそうだと言えなくもないのですが、まぁ、度々我が国でも西洋医学中心主義から批判される『東洋医学*1や『インド医学』、『民間療法』など様々なモノが存在している訳です。例えば、『梅干を食べると疲れが取れやすい』というのは民間療法ですやね?現在ではその主因はクエン酸ではないか、と言われていますが、果たしてそのクエン酸が体内でどのように働いて疲れを取るのか、それは解明されていないと思うのですけれども、一応クエン酸回路に入っていって乳酸などを分解するから、という事にはなっています。もしエビデンス(科学的有効性)が確立していればそれは『医薬品』と呼ばれるものになるはずですが、まぁ、誰もそんな努力はしないでしょう。なんせクエン酸は商売にならない。そっこら中にありますし、そもそもすでに『日本薬局方*2に収載されてしまっていますし、まさかクエン酸を薬価収載させようというメーカーは存在しないでしょう。ならば、エビデンスをとる為の研究は為されるはずがない。もちろんこれは経済性からと言う話となりますから、例えばどこかの先生が興味を持ってその研究に打ち込む可能性を否定する訳ではありません。ただ、その場合それはあくまで自家研究となる場合が大きく、それが『科学』と呼べる域に達するかは不明ですけれども。

 しかし、私たちはクエン酸を飲んで疲れが取れた気がします。もちろんそれは気がしただけかも知れませんが、少なくともそれを感じた私にとってはそれは真実です。ならば私はクエン酸を摂取することを多分やめないと思うんですね。ただ、私は疲労困憊に陥った時クエン酸だけに頼ろうとは思わないのです。足に激痛が走った時、クエン酸で何とかしてやろうとは思わない。素直に病院にいきます。で、診断を受け、処方を受けたいと思います。それは、病院にいけば病的な状態が改善されるから、と思っているからです。
 あと、インフルエンザが流行っていると聞けば、やはりマスクの一つもかけたいと思いますし、外出から帰ってきたらうがいもしたいと思います。汚物を処理したら石鹸で手を洗いたいと思いますし、出来うることなら次亜塩素酸ナトリウム水溶液にしばらく手を浸していたい。

 既知の危険に対して既知の対処法があるのであれば、当然それに寄りかかりたいし、そうすべきだと思うのです。特にそれにあまりリスクがないのであるのなら、更にそうしたいと思うのが普通だと考えます。



 なんか話がこんがらがってきたな。
 
 つまりは、回避できるリスクに対し、リスクで迎え撃つというのは馬鹿げているし、信仰を他者に押し付けるのはもっとどうかと思う、と言うあたりなのですが、どうもそんな事を言ってる筋じゃあないな(^^;
 
 その助産師さんは『ビタミンK』を与えることこそがリスクであり、それを回避する為に『レメディ』を与えたらしいのですが、それがリスクであるという認識がなかったんでしょうね。ただ、それを行うことにより他者より規制〜詰る所与えるべきビタミンKシロップを与えていない事を指導される……糾弾されるのを回避する為にそれを与えたことにしておいた、早い話が偽装して虚偽記載を行った訳で、かの方には多分そこにやましさはなかったのでしょう。そう考えていくと、なんというか、えぇ、もう。
 今回、本件について日本助産師会はビタミンKを与えることは当然の行為であるという声明を発表しているのですが、なんというか本気でそう思っているのか?という気がしないでもない文章が今公開されています。もしご興味のある方はご覧になってみてください。
http://www.midwife.or.jp/pdf/k2.pdf


 さて、とても本論はまとまっているとは思えないのですが、いい加減長文となりましたのでこの辺で締めくくりたいと思います。
 もし、自宅出産をお考えの方、助産院で出産したいとお考えの方。
 戦後医療環境が整うまで、新生児死亡率はどれくらいあったのか一度お調べになってみてください。昔、どれほどのお母さんがその命と引き換えにお子さんをお生みになったのか、それも検討してください。その上で充分な診断や体制を整えた上でご出産に臨まれることをお薦めします。
 お産は病気ではありません。それは生命の誕生と言う大きな輝かしい事であるとも信じます。ですが、その行為がまるで安全なものであるとは思わないでください。子ども、特に新生児は様々な人の手がなければ育てられない、護られるべき存在である事も忘れないでください。

 私は、そう、切に思うのです。

*1:ここでは漢方や鍼灸としておきたいと思います

*2:日本陸軍がまとめた薬剤に関する仕様書、でよかったかな?