(雑記・mixiより転載)叩かれるかも知れんけどさ。

食中毒 生肉検査2年間行わず
http://www.jiji.com/jc/p_archives?id=20110502201740-0796899

 えびすさんははじめ、自主検査をしておられたとか。真面目な企業さんだったんでしょうね。
 そして、いつも陰性だったから検査をやめたとか。だからあの値段が出せたんでしょうね。
 徹底したコスト意識。それが安さの秘訣です。


 法的な事を言えば、大規模給食業者さんでもない限り提供前検査というのはやってないと思うのです。食中毒が出た場合、その原因食を迅速に究明するために『検食』と言ってその日出した料理を少しずつ残しておくと言う事はあります。

 HACCPの概念だとどうだったかなぁ。アレだと納入された食材が要求基準を満たしている証明を納入業者さんに求めて、それを受け入れた後は保存管理が適正に行うという事に重点を置いていたように思います。例えば、冷蔵庫の温度は常に4℃以下だったとか、調理したハンバーグは中心温度が75℃1分を確実に超えるだけの調理時間加熱してあったとか。場合によっては抜き取り検査なんかもやりますが、よほどの事がない限りやんないでしょう。

 受け入れ時の自社検査というのもどれだけ迅速にやったとしても一般生細菌数の検査に24時間、大腸菌だと48時間以上かかりますし、それが生鮮であった場合、多分検査結果が出る前に消費されてしまいます。今ではルシフェリン〜ルシフェラーゼ反応と言うものを利用した、そこにATPがあるかないかで汚染があるかないかを調べる方法もありますが、これにも限界はあります。……多分食材の検査には使えません。なぜならこの検査は生物が生産するエネルギー通貨であるATPの濃度を測るものなので、そもそもそのATPに溢れているであろう食材には使えないのです。
http://www.kikkoman.co.jp/bio/j/kensakit/bbiseitop.html
 あー、最近は大腸菌検査キットってあるんですね。5.5時間は革新的です。
http://www.advantec.co.jp/japanese/oshirase/cmp2010032401.pdf
 うーん……個人店じゃ無理だし、中小CKでも難しいんじゃないかなぁ。導入コストが10万で、一回単位がおおよそ270円。実際は55万の機体を買ってこにゃならないでしょうし、こんな経費かけるんだったら素直に生食提供やめた方がいいわ。


 うちの店では生食用の魚などは腸炎ビブリオに、貝類はノロウイルスなどに、鶏肉はカンピロバクターに汚染されていると言う前提で作業をしていましたが、必ずしもそう考えない職人さんも多いようには思います。
 いくつか前の日記で話にもなりましたが、ならば『うちの店では絶対に食事しない』とうそぶくアルバイトさんやパートさんだとどうなるんかなぁ? と思わなくもないのです。


 私は生肉好きですし、考えてみれば小学生の頃から牛タタキなんかは食べていたように思います。ただしこの時には葱やショウガと言った殺菌作用のある薬味をてんこ盛りにして喰えと教えられてきました。カツオがタタキになったのも、実は食中毒が頻発したからだそうで、江戸時代の衛生環境から考えればそれはさもありなんな気もします。江戸前寿司は本来『生』の魚をネタとしないというのもそのあたりなんですよね。全ての食材が煮る・蒸す・〆るといったヒト手間をかけられているのが江戸前のにぎり寿司の特徴です。上方の寿司にしても生魚の使用はないですよね。例えば鯖はアニサキスがいますし、輸送の時点で塩漬けにされます。これを京都や大阪では酢につけて鯖寿司やバッテラに仕立てます。……寿司の原点は鮒寿司なんかのなれ寿司なのだからそれは当たり前だろう? といわれりゃそこまでですけどね。生すしというのは、塩と酢で〆た早寿司で、それがより簡素化したのがにぎり寿司ですし。(その間に柿の葉寿司や笹寿司が存在しますけど)


 ともあれ、食品加工と言うのはそれこそ人類が火の使用を覚えてこちらそれこそ数万年レベルで続いている事。外食は室町〜江戸と言う事になりましょうが、そういった長い歴史の中で出す側・食べる側で持ち合っていた暗黙の了解とか、経験と言うものが存在します。
 確かにね、科学万能の世なのだから全ては科学的にやれ、数字を見せろという向きもあるでしょう。逆に言えば、その『数字』を追った方向に『外食産業』と言うものが成立し、経験とか知識とかが拭い去られた現在にこそこういう事件が生じたとも言えるんですよね。
 あと、検査は万能ではありません。例えば生牡蠣。あれは同じパックの牡蠣を食べてもかかる人とかからない人がいます。O-157なんかについてもそう。必ず検査抜けは起きます。とは言っても、厚労省の基準に準拠すればこういう事件はおきないでしょうけれどもね。
 ただしその場合、ユッケは1000円以上出さないと食べられないものとなるでしょう。というか、従来あれはそういう食べ物だったはずです。280円で食べられるものではなかったはず。


 悪い事は言いません。お願いですから子どもに生肉は食べさせないでください。生牡蠣なんかもね。そしてどうしても食べたい人はそういうことがあるのだという覚悟の上で召し上がってください。もちろん、提供側も断る勇気を持つべきですが、断られたからと言って『金は払うんだ、こちらは客だぞ!』とすごむのはやめてくださいね?