(空想)新規感染症流入におけるモデルの想定

 ご無沙汰しております、きょくせんです。
 本編は、
http://q.hatena.ne.jp/1348895989
 に触発されて書く文章となります。パンデミック、というか、致死性の高い新規感染症がある町に侵入し、それによりその町がどういう状況を辿り、どうなるかという事を思考実験するものです。本来であればきちんとシミュレーションをして書く必要のあるものですが、これはあくまで趣味のレベル、小手先で行いますのできちんとした事はやりません。そのあたりはあちこちの行政機関や大学、研究機関で予算や給与を得てやっておられる方々がそれなりにおられるはずですのでそちらにお任せしたいと思います。
 と、言う訳で今からここで書く文章はあくまで私の頭の中でこねくり回した話でありますので、それがどこまで真に迫っているかは判断しかねますし、そういうものにはならないんじゃないかな、と思うのですが、アウトラインをつかむもの、という事で流していただけると幸いです。

 なお、私は元医療用医薬品卸の従業員でありましたし、過去には生物学を少し齧った、また、今は物流に関わっているという事でそのあたりの視点に偏る事もご容赦ください。
 お前これアウトブレイクの見すぎじゃね、というあたりもご勘弁。

 では、はじめましょうか。


(想定)

舞台:
 人口20万人程度の地方都市、医療機関はそれなりに存在しており他都市への移動もある程度ある場所を想定します。その住人の多くは2次産業以上の職についており、詰る所食糧自給率は低いという事にします。

病原体: 
 飛沫感染のウイルス。潜伏期間は3〜4日程度、発病3〜5日で回復/死に到るものとします。死致率は10%で感染後1週間はウイルスの放出が起きるものと想定します。
 主な感染部位は呼吸器系、発病後24h以内に高熱が出て動けなくなります。

 と、想定はこんな感じでしょうか。
 

 (シナリオ)

流入期:
 海外の某国への出張から帰ったA氏はその早朝、咽喉の異変を感じていた。心なしか熱っぽさも覚えていたのだが、出張の疲れが出ているのだと思い、常備していた栄養ドリンクを服用し、定時通り出社した。
 オフィスにて出張報告書を作成していたのだが、咳が出始め、熱が高くなっていることを自覚した為に風邪薬を服用、昼頃にはデスクについている事すら困難を覚えて早退を考えたが出張中に溜まっていた仕事や出張にまつわる事務手続きを考えると帰る訳にもいかず、そのまま作業を続けた。むりやり昼食を摂り、解熱剤を服用したものの一向に症状は回復せず、15時ごろには全身の関節が痛み出し動く事も困難となり、やむなく早退、何とか自力で近隣の診療所へ辿りついた。
 診療所の待合室で診察を待つ間、A氏は熱による痙攣発作を起こし、それを重く見た医師は救急車による上位救急への搬送を決意、A氏は中核病院へ医師付き添いの元運ばれる事となった。
 医師よりの連絡を受けた中核病院救急部は熱痙攣の対処準備を整え、A氏の搬送を待った。その際、救急部ドクターが感染症の可能性を考えたが、その直後心臓発作により重篤な状態にある患者の受け入れ依頼があり、その対応作業に忙殺される事となった。

 ちなみに、この時点においてA氏が海外某国より帰国した事を知る医療機関関係者は皆無である。
 また、某国においては本感染症による死者が続発しはじめてはいたものの、それはまだ国際機関等へ報告されてはおらず、某国の国内ニュースとしてすらも取り上げられてはいなかった。
 従って、A氏がその死致率の高い新規感染症に罹患した可能性があると考える者はほとんどいない。


 救急搬送されたA氏はまず点滴を受け、診療所医師より状況……風邪のような症状の為に来院したA氏が待合室で熱痙攣を起こして倒れた……を聞いた救急部ドクターは重篤な気管支感染症と判断、新型インフルエンザ対策の際に新設された陰圧病室へとA氏を隔離した。治療に当たる医療スタッフはマスク着用の上、病室への出入りの際は手洗い等を徹底する事とした。ただしその搬入の際し、何か特別な経路を用意した訳ではなく、A氏は通常の救急外来搬送口より陰圧病室へと運ばれた。

 
 その頃、大都市圏において風邪症状を訴えた患者の死亡例がいくらか増えるという状況が報告され始めていたが、それは通常の範囲よりいくらか逸脱している程度であり、まだそれが新規感染症であると認識するものは少なかった。

 
 A氏は(それ以降から考えれば)手厚い看護を受け回復し、3日後退院するのだが、その際、インフルエンザの可能性もあるからとあと2〜3日は自宅療養するよう言い渡され、会社からも休むよう指示を受けた為A氏は翌週より会社に復帰した。
 そしてA氏はそのオフィスで、社員の半数以上が風邪で休んでいるのだという事実を知る事となった。


感染爆発期:
 A氏が陰圧病室で治療を受けている頃、市井の診療所では季節外れのインフルエンザによる外来患者が多数発生しており、中には重篤転帰を向かえる者も発生していた。大都市圏においても似た様な状況が起きており、俄かにマスコミも注目し始めた。ネット上では新規病原体ではないかという意見が呈され、科学的には証明されていない怪しげな何かを推奨するものも現れ始めていた。

 A氏は職場復帰後、休んでいる上長や同僚達の仕事を抱え込みながら辛うじて業務が廻っている会社でそれを知った訳だが、作業中、突然倒れる同僚を目にした。顔面蒼白で口からは泡を吹いている彼女はA氏の後輩だった。同僚の一人が救急車を呼んだが到着にはかなりの時間が要する事を告げられたとの事で、A氏は彼女を自分の車に乗せて近隣の診療所へと走った。
 診療所についてみるとそこには休診の看板が出ており、居合わせた患者の話によるとA氏が倒れてしばらく後、受付の女性が発病、それから次々と医療スタッフが倒れたらしい。また、この医院に通っていた患者の中にも少なからずタチの悪い風邪をこじらせたものがあり、中には死んだ者もいるとの事だった。A氏は診療所が休んでいる事を会社に残っている同僚へ連絡すると、後輩を診てくれる診療所を探すため車を走らせた。

 廻った診療所のいくつかは休診しており、また、あいている診療所もマスクをした患者で溢れかえっていた。後部座席に寝かせていた後輩を見るとその息は心なしかか細くなっている様な気がして、A氏は中核病院へと向かった。

 中核病院についてみると、正面玄関には『高熱で来院の方はあちらへ』という看板が出されており、その示す方向へ向かってみると、野外に透明のビニールで作られたエアテントが設置され、中にはニュースで見たことがある程度の防護服に身を包んだ医療関係者と思わしき人々が、苦しそうに横たわる人々の間を行き来していた。運動会で見る様なテントの下におかれた会議机には『受付』の紙が下げられ、そこにも何人かの患者が並んでいた。彼らはなにか色付のタグのようなものを医療スタッフから下げられ、ぐったりした子どもを抱えた母親が受付の人間に泣き叫びながら詰め寄る光景も見られた。
 ますますか細くなるような、そんな不安げな呼吸をする後輩を抱えたA氏は列に並び、それでも辛抱強く自分達の番が来るのを待った。順番が廻り、簡単なやり取りをした後、タグを渡してきた受付はその野外にあるテントの中に彼女を運び込むように指示した。ついで受付はA氏に中の診療室へ向かう事を指示したが、自分も同じような症状で先日までこの病院に入院していたのだという事を告げ、その時と今では随分扱いが違うのではないかといった所、あの時と今では状況が違う。違いすぎるのです、と、受付は悲しんでいるような、怒っているような、複雑な色を湛えた目をゴーグル越しに向けた。
 A氏は後輩をエアテントの中の医師? に預けると診療を受けないまま会社へと戻った。


 会社では新たに倒れた社員が発生しており、業務遂行はもはや不可能という状況へ追い込まれていた。物資が入ってきてもそれを末端へ送るドライバーがいない。A氏は慣れないトラックに乗ると、配送先リストを眺めながら絶望的な気分に陥った。こんな状況が世間中で起きているとしたら、一体どういうことになるのか。暗澹とした気分になりながら普段よりも圧倒的に車通りの少ない道を走り始めた。


 後輩の死が伝えられたのは、それから2日後の事だった。




 と、なんか変な具合になってきたなぁ。
 とりあえず今はこの辺で。