反逆者

 彼にしてみればそれは偶然だったのだろう。いや、そもそも彼と言う表現を用いて構わないのか、どうか。しかし、彼の出現によって死んでいったモノたちは、やはり彼のことを許しはしないのだろう。
 今からはるか昔の出来事。
 彼は、住み心地の良い海底の、火山地帯を追放された。
 放浪。彼はもう、それが何時の事だか解からなくなっていた。果てしなく続く連鎖。分裂の果て。彼はあることに気がついた。海面が近い!太陽から降り注ぐ強力な紫外線は容赦なく彼の身体を叩いた。細胞壁を突き破り、細胞小器官を透過しつつ、果てはまだ核とも呼べない彼の中枢。彼の全てが記された物質の鎖を引き裂いた。ある彼は死に絶え、ある彼は生き延びた。彼は必死に鎖を繋ぎ続けた。二重螺旋になった鎖。一方が壊れた物はその残った一方を手本に。2本共が千切れてしまったものはただ闇雲でもいいと繋ぎ直した。
 だから、彼はなぜそうなったのか理解出来ないでいた。別に彼はそう望んだ訳ではなかった。ただ、彼はそうなっていた。
 彼は波間に浮かびつつ、海底火山の元で育ったはるか昔を思い浮かべていた。それは、楽しい思い出だったように思えたが、今となってはもうそれを取り戻す事は出来なかった。彼の身体はもはや、あの暖かな場所には適さなくなってしまっていた。分裂し、はなれていく自分を見つめつつ、彼は自分があまりにも変わってしまったことにため息を一つ、ついた。
 今からはるか昔の出来事。
 それまで亜硝酸や亜硫酸から生きていく糧を得ていた細菌の中から酸素を吐き出すモノが生まれた。彼らは光を浴び、大気中の二酸化炭素から酸素を作り出して糧を得た。酸素。それはそれまで生きていた生物達には猛毒以外の何物でもなかった。絶滅。彼らを待っていたのはその二文字だった。
 やはり、彼にしてみればそれは偶然だったのだ。それは、神の気まぐれだったのかも知れない。

                               終わり

 やってみたけどうまくいきませんな。
 んじゃあもういっちょ!