防人

 目は見えなかった。そもそも、ここには光などない。いや、あるのかも知れないが僕にはそれを感知する術はなかった。大きな流れに身を任せ漂う。何もなければいいのだけれども。
 『アツマレ・アツマレ』そういう匂い、それはだんだんと強くなってきていた。何かが来たのか?何かが起きたのか?僕は匂いに全ての意識を集中した。一瞬、匂いが薄まる。ここだ!手を伸ばすとそこにはあるべき壁がなくなっていた。間違いない、仲間達が染み出して行った痕だ。僕は思い切り身体を捻らせた。
 穴を通り抜け、仲間達が作った道を通り抜けていく。その道すがら。『コワシテ・コワシテ』という匂い。破壊された組織の悲鳴、細胞たちの声。僕はそこを通り抜けていく。すまない、皆。仇は必ずとるから。彼らは僕だ。僕は彼らだ。ふと思う。不思議な世界だ、と。
 『ウケトレ・ウケトレ』指揮官がそばにいる。僕は腕を伸ばした。うん、これは僕が担当する敵だ!僕は僕を増やす。そして、タンパク質を作り出す。吐き出すタンパク質は敵を絡めとる。絡めとった敵は生きていようが死んでいようが、後からくる誰かが喰らい尽くす算段だ。
 僕はただ、僕の仕事をこなした。あれまてよ?でもこれって、僕じゃないか?

                                おわり

 難しいですね、やっぱ。