夏の日の一シーン

 足羽山の茶屋。店を切り盛りする老婆が一人、他に客はいなかった。よしずの向こう、子供たちが走っていく。その影は濃い。せみの鳴き声。通り抜けていく風。私は思わずネクタイを緩めた。茶屋の中は薄っすらとした明るさ。何も見えないほどの暗さではないが、何かを探すには苦労しそうな明るさ。向かいの席に座る少女のサマードレスの白さがボンヤリと浮かんだ。カキ氷、冷やし善哉。私は無言でカキ氷を混ぜた。少女の視線は善哉に浮かぶ白玉に落とされていた。額から汗が噴出すのがわかった。真っ白だったカキ氷はやがて真っ赤な氷水に変わった。やがて、少女が顔を上げた。そして一言、こう言った。
「カキ氷、とけちゃってますよ」
 匙ですくって一口。甘く冷たい。少女は善哉を一口すすった。
「どうしたらいい?」
 少女は、何も言わなかった。
 
 過去形と、現在形の混在というのはどうなんでしょう。たとえば、私は『向かいの席に座る(中略)白さがボンヤリ浮かぶ。』としたいんですが、それでは駄目なんでしょうね。