戦車戦

「各車、カクカク。突撃。突撃」
 中隊系無線、インカムを車内通話に切り替える。
「突撃」
 エンジンがうなる。ペリスコープで周囲を確認する。まさかこんな所で戦車どうし殴りあうとはお互い思ってもいなかっただろう。
「そういや、ここらは転作してたよな」
「麦です。今我々が踏み荒らしてます」
 操縦手の答えに誰が補償するのだろう、と一瞬。どうでもいい、今は。レーザー、警報なし。中隊系のデータリンクボードは我々が俗に言うパンツァー・カイルを形作っている事を示していた。もちろん先頭車両は中隊長車だ。福井県民軍第6戦闘団残存兵力。たった10両の戦車。相手は1個旅団相当の静岡県軍。その正体は富士教導隊だった。どう考えたって勝ち目は無いな。無線が入る。
「中隊長車被弾、脱出者なし」
 その声に感情は無い。
「目標、01。弾種、徹甲、撃て」
「てっ」
 射撃手の復唱、爆音、振動。尾栓が開き薬きょうが排出される。自動装填機は次のAP弾を砲内に送り込んでいた。ペリスコープで目標を見る。弾いた。
「12号車、被弾、炎上」
 わかりきった結果だ。俺たちはここですり潰される。そのために俺たちはここにいる。
「後何分持つと思う?」
「さぁ」
 操縦手の明るい声。射撃手も笑っていた。
「01、撃て」
「てっ」
 今度は刺さった。目標戦車が突然止まる。
「AP、残弾なし。HEでも撃ちますか?」
「なんだ、まだあったのか?」
 尾栓が閉じる。ペリスコープをまわす。そのうちにも次々と中隊の戦車は撃破されていた。
「目標、04。好きにしていいぞ」
「へへっ」
 ペリスコープの中、砲弾が飛んでいく。弾かれはしなかった、が効果も無かったようにも見えた。
「ま、そんなもんだろうな」
 目標車両の砲塔が回った。発砲は同時だった。
 所詮は義理のためだ。生き残る必要は無かった。